前回のコラムでも書いたように冷却・温熱療法は効果的です。効果や目的をしっかりと理解し、適切に選択することで治療効果を上げ、正しく対処できるようにしていきましょう。
温熱療法は、主に慢性的な疼痛や筋肉の緊張を伴う疼痛に対して有効です。その効果のメカニズムや目的について説明します。
温熱療法
温熱療法のメカニズム
血行促進 温熱により神経の反射を介して血管拡張物質が放出され血管が拡張し、血流量が増加します。これにより、酸素や栄養素の供給が促進され、組織の修復を促します。 |
筋肉の弛緩 温熱による筋紡錘の活動の抑制や血流量の増加によって筋肉の緊張を緩和し、疼痛や痙攣を軽減します。 |
鎮痛作用 温熱は、皮膚温度受容器の活動性を高めることで神経伝導速度を低下させ、痛みの伝達を抑制します。これにより、痛みの感覚を鈍麻させる効果があります。 |
代謝の上昇 温熱療法は、酵素反応速度を1°Cにつき約13%速めると言われており、血流や酸素利用度の増大作用によって組織の治癒を促進します。 |
組織伸展性の上昇 温熱作用により腱や靭帯・瘢痕組織・関節包などのコラーゲン軟部組織の線維自体の粘弾性を変化させ、組織の伸展性を上昇させます。 |
温熱療法の目的
【疼痛のコントロール】
疼痛閾値(痛みを感じるポイント)の上昇と筋スパズム(筋緊張)の減少、血流の増大により疼痛物質が排出され、局所の痛みを軽減する効果が得られます。特に筋緊張を原因とする痛みや神経痛には高い効果を得ることができます。
一般的にどのような種類の疼痛に対しても効果は得られますが、急性炎症による疼痛に対しては、炎症症状(腫脹・発赤・熱感)が悪化するおそれがあるため行いません。
【可動域の増大】
温熱療法によって筋緊張が緩和し、軟部組織の伸展性が高まり、血行が促進されることで関節周囲の組織への栄養供給が改善され、関節の柔軟性が向上します。温熱療法後に他動的ストレッチングを併用することで、可動域の増大や損傷リスクの軽減も期待できます。
【治癒の促進】
急性期以降の炎症に対して施行することで、血流の増大と代謝率の上昇に伴って組織治癒が加速するといわれています。ただし急性炎症期の使用は浮腫を増大させることがあるため推奨されません。ここで行う温熱療法はマイクロ波(高周波の電磁波を用いて深部を加熱する方法)や超短波・極超短波(高周波の電磁波を用いて深部を加熱する方法)などの深部に熱を与える温熱療法になります。
「冷やす」のと「冷え」は違う
自宅で冷やすアイシングなどで行う「冷やす」とは局所を冷却することで炎症や痛みを抑え、生体反応を利用する治療法の一つです。アイシングすると「冷え」るのでは?と心配される方もいらっしゃいますが、「冷やす」と「冷え」は別の問題です。
東洋医学において、「冷え」は単なる体温の低下ではなく、気血水(身体)のバランスの崩れによる生理機能が低下した状態です。自律神経やホルモンバランスの乱れ、内臓の弱りや血行不良、水分代謝や栄養不足によって冷えやむくみの原因となります。さらに運動不足や生活習慣の乱れによって基礎代謝量が低下することも原因となります。
温熱療法の注意点
温熱療法は比較的安全な治療法ですが、血管拡張により腫脹や出血を増大させる可能性があるため、急性炎症期や出血後(受傷後48〜72時間)は実施するべきではありません。また、使用中は過度の加熱による熱傷に十分留意する必要があります。
【やけど】
高温の熱源を使用する場合は、やけどに十分注意しましょう。特に、高齢者や皮膚感覚が鈍い方は注意が必要です。低温やけども起こりえます。長時間同じ場所にカイロを当て続けたり、冷え切った体を急に温めすぎたりしないようにしましょう。
【急性炎症期】
捻挫や打撲など、急性期の炎症がある場合は、温めることで炎症を悪化させる可能性があります。また出血している部位への温熱療法は、出血を悪化させる可能性があります。
【基礎疾患】
悪性腫瘍がある場合は、温熱療法が腫瘍の増殖を促進させる可能性があります。また心臓病や高血圧のある方は、温熱療法によって血圧が上昇したり、心臓に負担がかかる可能性があります。
まとめ
冷却・温熱療法は、痛みを軽減するための有効な手段ですが、その効果は一過性であり、全ての疼痛に効果があるわけではありません。症状によっては痛みが悪化する場合もあり、他の治療法との併用がより効果的である場合があります。ご自身の症状に合わせて正しく実施しましょう。ご自身の症状についてご心配な場合は、ぜひご相談ください。